Vol.6 棟梁の定義とは

棟梁に求められるあらゆる能力。
本物の棟梁とは何かを語ります。
四代目主人・難波 恭一郎のインタビューです。
2007年頃の古い映像ですが、参考資料として公開いたします。
文字起こしは意訳を含みます。ぜひ動画もお楽しみください。
[赤字] インタビュアー
[黒字] 難波会長
「棟梁」の定義というのは、具体的に決まったものがあるのでしょうか。どこまでできれば棟梁と呼べるのでしょうか?
棟梁というのは、人の上に立つ存在であり、全てができなければなりません。設計、施工、経営、資金管理など、すべての面でバランスが取れて初めて棟梁になれると思います。
棟梁は、御社には何人くらいいらっしゃるのですか?
そういう意味では、私自身もまだまだ棟梁とは言えません。常に「立派な棟梁になりたい」という向上心を持った人間が集まる会社でありたいと思っています。
オーソドックスな家であっても、完成したときに嫌味や違和感なく、「何かが違う」「良いな」と言われるような家が理想。ですが、それは図面をパッと見て、完成図が頭に浮かばないといけないわけです。経験が浅いと指示されたままにしか建てられませんが、経験を積むほど、細かな調整や工夫が自然にできるようになります。
色々なパターンがあって、家も一軒一軒違いますよね。面白いですね。
そうですね。それが面白い反面、手間がかかるのでなかなか儲かりません。
今はですね、玩具館を建設中で、蔵をイメージした総二階の建物で、ケヤキを使った木組みが特徴です。

玩具館というのは、どのような玩具を展示するのでしょうか?
ねぶたのように照明を当てることで浮かび上がるようなものや、狛犬や張り子の虎など、全国各地の郷土玩具です。オーナーの方は、利害を抜きにして、地域文化を伝えるためにこの施設をつくりたいという強い思いを持っておられます。初めて当社に依頼された方ですが、「なんばさんの建物なら安心して任せられる」と言っていただき、外観は蔵をイメージして設計しました。
どんなプロセスで建物が出来上がっていくのか、というところにノウハウがあるんですよね。
例えばこのお客様の場合、展示会に2回ほど来られました。施工写真を見て、うちが蔵の施工もできることを知って興味を持たれたようです。そして最初に来られた時に丸太が展示してあり、その印象が強かったのだと思います。自分でも民家や郷土玩具を置くというイメージがあったようで、「なんばさん、こんなのを思っているんだけど」と言われたので、「僕ならこう作りますよ」とフリーハンドでササッと描いて見せました。すると、「まさにこういうイメージです」と共感してくれて、具体的に図面を起こすことになりました。
だから、お客様が求めていることを的確に掴めるかどうか、波長が合うかどうかが一番大事です。他社と競合するとかしないとかいう世界じゃなく、適正な利益だけをしっかりいただいて、それ以上は無理しないという真面目な話し合いをします。
他社との競合はあまりないのですか?
ないですよね。競合を意識しないというよりも、うちのように技術や家そのものを最優先にしている会社が少ないからだと思います。お客様と話す時も、最初から予算や利益ではなく、まず家づくりそのものから入ります。結果的に予算が膨らむこともありますが、私自身も建物から入っているので、なんとか建てたいじゃないですか。少々無理してでも調整します。だから、あまり儲からないんですけどね(笑)。
最初に算数(予算)から入るのではなく、技術や建物のイメージから入ると、自然とお客様とも波長が合います。お客様と何度話しても、結局は技術や家づくりという話に落ち着きますから、嘘もないし、スムーズに図面や見積もり、契約まで進みます。その過程に他社が割り込んでくることはまずありませんね。